ソレイマニ亡き後のイラン体制

01.12.2020.

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Iranian supreme leader Ayatollah Ali Khamenei with Qasem Soleimani in 2015. / khamenei.ir

Geostrategy-Direct / January 7, 2020

カセム・ソレイマニ・ファイル

抜粋:地理情報システム・防衛及び外交問題 (GIS/Defense&Foreign Affairs) グレゴリーR.コプリー (Gregory R. Copley) 及びアサド・ホマユーン (Assad Homayoun) 博士による分析

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師の下での聖職者指導部は、1月3日にバグダッドでなされたイラン革命防衛隊 (IRGC) コッズ部隊の司令官カセム・ソレイマニに対する標的殺害に対して、迅速で重要かつ象徴的な対応をするであろうと予想されている。

イランの報復は、当初計画していたイスラエルへの軍事攻撃を開始することではなく、むしろ、特にサウジアラビア、アラブ首長国連邦、およびバーレーン (それ以外の国を全て除外しているわけではないが、) といった、この地域の石油生産と米国の主要同盟国からの輸出を標的にするような何かの手段であるとも考えられる。

これは特に、中華人民共和国 (PRC) に悪影響を与えるであろう。中国経済がすでに深刻な下落に苦しんでいる時期に発生するため、石油価格の大幅な上昇による正味の影響は、中国の景気後退を加速させ、2020年が経過するに伴い、世界経済に大きな影響を与えることは必至である。

中国経済の衰退は、年間を通じていかなる状況下においてもいつも米国経済に影響を与えてきたが、特に今回は2020年11月の米国大統領選挙および議会選挙に影響を与えることになりかねない。したがって、ソレイマニの殺害という極めて重要な出来事は、米国と中国ができるだけ早く貿易問題の解決を図ることを確実性がまして来たように思われる。

確かに、短期的には、イラクの米軍施設ならびにペルシャ湾及びその他の地域における米軍基地に対するテロリストや転覆工作活動家の動員によって現在も進行中の、シーア派民兵部隊によるイラン主導の攻撃は大幅に上昇するであろうとみられている。

病弱なアヤトラ・ハメネイ師指揮下のイラン聖職者指導部が、ソレイマニとその他の要人数人を殺害した米国の決定的な攻撃による衝撃を受けるまでは、彼らの二大強敵である米国とイスラエルの決心決断決意と意図目的真意を完全に読み違えていたということと、間違った認識に従って行動していたという事実がますます明らかになってきている。

状況の読み間違いによってハメネイ陣営は軍事的に対決することでイスラエルを滅ぼすことが可能になったと思い込むようになった。イランの聖職者指導部の何人かは、ペルシャ湾と、より広い中東地域からの米国駐留部隊の撤退が可能となることは、ロシア地域、中国 (PRC) 及び目下の同盟国トルコにおける交戦の最小化の先駆けとなるであろうと発表していた。

これを受けて、ハメネイは、2020年初旬には劇的に悪化している国内問題を、大きな政治的・軍事的政策転換によってイランの戦略的運勢をどうにかひっくり返して解決することができると信じているように見えた。これは、レオポルド・ガルティエリ (Leonaldo Galtieri) 中将がアルゼンチンの軍事政権の運勢を逆転させようと、彼が権力にしがみつくための最後の手段として1982年にマルビナス諸島に侵略し失敗したような試みのようにも映る。

同様に、ハッサン・ロウハニ (Hassan Rouhani) 大統領の下での公式的なイラン政府は、おそらく2019年半ばまでに、実際の政策立案の立場からは完全に外されてしまったことも明らかになった。

ハメネイは、イラン革命防衛隊の主要なリーダーたちに支えられ、2019年の半ば頃から読み違えた地域やグローバル情勢をもとに、何らかの形の今までに前例のない外交冒険主義を、衰退する国内保安情勢を安定させるための手段として用いることを日増しに目論み始めたようである。事実上サウジアラビア主導の同盟国による戦略の失敗によって齎された、イエメンでのイランの軍事的な成功という間違った認識が、テヘラン中枢にイラン軍は彼らの眼前の敵を全て蹴散らすことができるという信仰を生み出してしまった。

難しいのは事実だが、基本的にテヘラン聖職者たちは国内の政治や経済問題に対する必要な対策に力を注ぐことには気が進まないようである。

しかしながら一方では、イラン国境の外では偉大なる軍事的成功のための門戸は開かれているものと彼らは信じ込んでいるようである。 彼らは、国内の課題は難しすぎるが (何といっても国民に自らの弱さを見せることを恐れている)、外交面でチャンスは簡単すぎると考えているようである。

ハシュド・アル・シャアビ (Hashd alShaabi) が民衆動員部隊 (Popular Moilization Forces – PMF) を使って2019年12月31日から2020年1月1日にかけて実行されたバグダット (イラク) の米国大使館複合施設への襲撃は、イラン政府によって演出されたものであったが、この事件は一面、この地域におけるアメリカ政府の強さと意志力を探るためのテヘラン指導部の試みであったように見える。しかしもう一方では、それとは逆に、イランの戦略的意志決定における、増大しつつある現実性の欠如の反映かもしれない。

イラン政府は米国大使館に対する攻撃へのかかわり合いを否定したが、ハシュド・アル・シャアビのリーダーとソレイマニの間で明確な連携があったことは、2019年1月3日の空港襲撃において明らかになった。

いずれにせよ、米国大使館襲撃に対する米国の報復は、テヘランが望んでいたものではなかった。またアメリカの反応を探るため、あるいはテヘランの現実性の欠如のどちらの解釈を取るにしても、ハメネイ下の聖職者執行部は海外で国民の気持ちをそらせることによってイラン国内に高まりつつある政情不安から目をそらさせようとする傾向が高まっていることが浮き彫りにされた。

明らかに、イランの国内情勢は孤立化を続ける聖職者指導部がより効果的な経済的政治的マネージメントを行っていればここまで差し迫ることはなかったはずではあるが、短期的にテヘランはできるところではどこでも戦いを「勃発させる」ことを選んだ。それはこの地域における米国の同盟国の軟目標地帯においてであった。そして実際、2020年1月3日までに既に、予想通り聖職者指導部はソレイマニ殺害をイランに対する米国の全面戦争であるかのように利用し始めた。

いうまでもないが、バグダード大使館襲撃は米国の撤退をもたらすことがなかったばかでなく、イラン軍との直接対決に引っ張りこもうとする聖職者指導部の思うつぼにはまらないようにできるだけ用心深く考えての対応であるにせよ、むしろこの地域における米軍の増強につながった。

ハメネイが米軍対イラン軍の直接的な軍事的対決を歓迎するだろうという説得力がある証拠がある。それはハメネイの前任者アーヤトッラー・ルーホッラー・ホメイニー師 (Ayatollah Ruhollah Khomeini) が実権を握ってから一年程しかたたない頃に不満を持つイラン国民によって、政権を転覆させられそうになった時に取った1980年の前例である。

1980年9月22日、イラクによるアル・アラブ川 (al-Arab river) 対岸のコーラムシャール (Khorramshahr) への攻撃によって始まったイラン・イラク8年戦争はイラン側に50万人の死者と40万人の負傷者、直接的には5,610億ドルの (長期的にはそれよりずっと大きなイラン経済への打撃となった) 戦費負担をテヘラン国庫にかけるという結果をもたらした。

しかし、ホメイニーにとっては、それは払う価値のある犠牲だった。イラク攻撃をすることによって、イランの国内問題から、外国軍からイランを救うという愛国的な戦いに向けさせることで彼の聖職者指導部は救われた。

さらに、イラン-イラク戦争は、イラクであれ米国であれ、純粋に軍事的手段によってイランを究極的に打ち破ることは困難な目標であるということを明らかにした。そしてそれは今も同じである。ペルシャ人としての深く根差した国家的プライドに加え地政学的問題(サイズと地形)は、(国内問題による)内部崩壊又は弱体化に助けられることで戦費軽減されない限りは、イランに対してどんな軍隊を持ってしても成功を収めることは出来ないことを意味している。

こうして、2019年の終わりから2020年の初頭にかけて何が明らかになったかというと、イランの聖職者指導部 (したがってイラン革命防衛隊も) がイラン母国への外的侵略行為であるとイランの自国民に描いて見せることのできるような米国および、またはイスラエルとの軍事的衝突に向けて圧力をかけていたということである。

同様に、米国のドナルド・トランプ大統領は聖職者たちにそのような機会を与えないように苦慮しており、イスラエル国家安全機構も同様にイランによる戦略的攻撃の可能性を回避するために、戦略的先制攻撃を避けることに苦慮している。

民衆動員部隊 (Popular Mobilization Forces – PMF) に関わりを持つ武装集団によるバグダット米国大使館複合施設襲撃は、米軍のイラク及びペルシャ湾からの撤退の促進を目的にしたように見えるが、これは明らかに1979年11月4日にイランの「学生」によるテヘラン米国大使館の襲撃をモデルにしている。ではその時ジミー・カーター米国大統領はどのように対処したのか、それともの断固とした処置ができなかったのか、、、結果的には、この事件はホメイニ政権に、イラン国内の反対派を更に封じ込めることのできる自由を与えた。

バグダット米国大使館事件は、うまく仕組まれてはいたが、バグダッドのイラン大使館が望んでいたような反応は明らかに引き起こすことは出来なかった。

在イラクのイラン大使はイラン革命防衛隊のコッズ部隊前副コマンダー、イラージュ・マスジェディ (Iraj Masjedi) 准将であり、ソレイマニと密接に仕事をし続けていた。

ソレイマニがハメネイに近いことはよく知られており、イランのバグダッド大使館の運営は聖職者執行部の指揮下で明らかに行われていた。

よって、イランの聖職者支配者階級の立場を疑う余地はない。ハメネイは、2019年5月14日、米国のマイク・ポンペオ (Mike Pompeo) 国務長官がバグダッドを訪れ、伝え聞くところによれば「イランのある上級高官」と会った一週間後に、ローハニ (Rouhani) 大統領とモハマド・ジャバッド・ザリフ (Mohammed Javad Zarif) 外務大臣を、米国とのいかなる交渉からも身を引くように指示した。

唯一の疑問はハメネイがイラン国内の治安問題が引き返せない時点まで悪化する前に、例えばイスラエルと大規模な対決の「引き金を引く」かどうかである。

イラン革命防衛隊、そして恐らくイラン軍は、イスラエルのラファエル/イスラエル航空産業、アイアンドーム国家防空システムに集中砲火を浴びせて「イスラエルを破壊する」彼らの戦闘能力に希望を抱いていることには疑いの余地がない。そして、実際にイランはこの目的の達成のために利用可能な技術をアップグレードするために多くのことを行ってきている。まず第一に、レバノンのベンガ渓谷とシリアとの国境沿いのイラクに配備されている短距離および中距離弾道ミサイルの数が劇的に増加したことである。

第二に、それらのミサイルの品質が向上し致死率が向上したことである。

ハマス軍は、2019年11月に約450発のロケット弾をガザからイスラエルに向けて発射し、アイアンドームはそれらの約86パーセントを迎撃した。明らかに、ハマスとヒズボラ軍が彼らのシステムに精密誘導装置を付け加えれば、たとえその迎撃率が長引く集中攻撃の間保たれたとしても、86%の迎撃率ではイスラエルを防衛するのに十分とは言えない。そのことは、イスラエルの防衛軍も心得ている。それに加え、現実は、イランには既にアイアンドームを圧倒する他の方法を試す準備が整っているということである。このシステムは、2011年3月27日から運用され、2014年の10月暮れまでに1200発以上のロケット弾を迎撃した。

イランによる新しいアプローチは、弾道ミサイルやロケットだけに依存するものではなく、特に9月14日に決行された東サウジアラビアのAbqaiqとKhuraisの油田施設への攻撃のように、サウジの空軍に対して成功裏に使用された無人航空機 (UAV) が含まれている。さらに、より重装備のイラン製誘導システムのイラク・シリア国境への移動は、アイアンドームへの集中攻撃が、イスラエルに対する対都市兵器の使用の道を開くことが可能なるというオプション付きで、イランが戦略的(核)弾頭の配置を考慮している、あるいは配置し終えているということを示唆している。

この考えが無視していることは、イラン又はイランの代理人によるイスラエルに対するいかなる戦略的武器の使用も、イスラエル独自の先制攻撃用兵器とはかなりかけ離れた、イスラエルの報復能力によって反撃されるということである。イランは実質的な報復能力を持っていないため、事態が核による交戦にエスカレートした場合は深刻な打撃を受けるであろう。このためイランが考えられる唯一のオプションは、イランのイスラエルに対する先制攻撃が全てのイスラエルの戦闘能力を破壊するに十分なものであることである。

これはテヘランにとってまさしくギャンブルであり、緊張が高まるにつれて、米国はオフショアベースのイージス艦と連携する対弾道ミサイルの配置をすることでイスラエルの対空防御システムを強化するであろう。

はっきりいえるのは、イランが比較的早いうちに大掛かりな攻撃を開始することも予想できるということである。テヘランは、聖職者政権にだけではなく、米国がイラン国家の存続にかかわる脅威であるという認識の気運を維持する必要がある。そして、聖職者が最も恐れることは、西側陣営がイラン国民の中に存在する、聖職者階級が彼らの主な敵対者であるとみなしている数多くの「部族の」利益にアピールするように方向転換するのではないかと言うことである。